アズワンネットワーク

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世界でも類いまれなコミュニティづくりの試み

熊倉敬聡

元慶應義塾大学教授、元京都造形芸術大学教授
フランス文学、特に「ステファヌ・マラルメの〈経済学〉」を研究した後、コンテンポラリー・アートやダンスに関する研究・評論、企画、実践等を行う。 2000年代は、教育現場の変革の作業を展開し、NPO法人「芸術家と子どもたち」の立ち上げ、大学を地域・社会へと開く新しい学び場「三田の家」の立ち上げ・運 営に関わる。そして21 世紀的精神性の研究・実践に従事するとともに、新たなSocial Innovationの拠点HUB Kyotoの立ち上げに参画。 NPO法人Art& Society理事、ミラツク理事。

世界でも類いまれなコミュニティづくりの試み

『瞑想とギフトエコノミー』 2014/1/27 サンガ出版

4そしてアズワンコミ一二テイと…
『瞑想とギフトエコノミー』P306~310
第12章 美学特殊C、三田の家、Impact Hub Kyoto 
――ギフトしての学びの実験、そしてアズワンコミュニティと…… 

私が、そしておそらくはImpact Hub Kyotoが、これから共に活動し、互いのArt of Livingをより豊かにより深めあっていきたいと考えているコミュニティがあります。「アズワンコミュニティ鈴鹿」です。しかし、実は、それは「コミュニティ」とも言えないようなコミュニティです。なぜなら、アズワンは、もちろんどこか別天地に築かれているのでも、また既存の地域に囲い込まれた敷地を占有するのでもなく、それは、鈴鹿という現実の都市空間・生活に、散らばり、紛れ、溶け込みながら活動し生活するコミュニティなきコミュニティだからです。メンバーに訊いても、いったいどこまでがアズワンコミュニティで、誰までがメンバーなのかわからないという、いたって外縁がぼやけたコミュニティなのです。
私は寡聞にして、世界でこのようなコミュニティの存在を他に知りません。私は、彼らの実験・実践に、“もう一つの”社会、“もう一つの”文明の、小さいながらも具体的な萌芽を感じるのです。そのアズワンで今、まさにギフトエコノミーが開始されようとしています。
まず、アズワンコミュニティの紹介からしましょう。それは、2001年、三重県鈴鹿市の町中に「誰もが家族のように親しく安心して暮らせる社会をつくろうと(……)有志が集い、新しい社会への試み」としてスタートしました。その何よりのモットーは、人にも自然にも「やさしい社会」の実現です。そのためにアズワンは、独自の学びの場、独自の研究の場をもっています。その学びの場、サイエンズスクールは、「誰もが、反目や依存なく、自立した自分に成ろうとする人たちで、考え方や生き方を検べ、人として成長し合うための場でもあり、人を責めたり統制する必要のない社会気風の源泉」です。一方、その研究の場である、サイエンズ研究所は「人として成長する要素の解明や方法の考案、新しい社会組織の研究や運営要素の解明など、コミュニティ活動の羅針盤的な役割を担っています」。「サイェンズ(SCIENZ)」という奇妙な名は「Scientific Investigation of Essential Nature(科学的本質の探究)の頭文字SCIEN とZero(零・無・空…)のZ」から来ていて、「人の言動や、あらゆる事象について、固定・停滞なく、ゼロから、その背景や元にある内面・真相・原理を知ろうとする考え方」を意味するそうです。
これら学びの場と研究の場を礎として、「やさしい社会」を、単に理想に終わらせず、具体的な人間関係、生活デザインとして実現しているのが、アズワンです。そこでは、いかなる活動も、金銭的強迫やイデオロギー的拘束に無理強いされることなく、あくまで行いたいから行う、得意な技だから活かすという、自発的な自己実現と、それらの無理のない協調・協働で成り立っています。そして、2001年の開始以来、農園から弁当製造・販売店、カフェ、食堂、美容室から不動産会社までを、町中に展開してきました。それらの店、会社は、もちろんコミュニティの人たちも利用しますが、コミュニティと直接関係ない人たちもまた利用します。たとえば、弁当製造・販売店「おふくろさん弁当」は、一日干食以上を生産し、遠くは津市や四日市市まで配達しています。
そんな他に類を見ないコミュニティ、アズワンで、今、ギフトエコノミーが実験・実践されようとしています。
それは、アズワンの農園「SUZUKA FARM」のメンバーの一言から始まったそうです。
「野菜を作っているといっても、自分がしているのは種を蒔き、草を引いて、収穫する位のこと、野菜が育つたのは殆どが自然のカによるもの。そうしてできた米や野菜を、コミュニティの皆にタダで贈りたい」、つまり、自然からの贈与を、コミュニティのメンバーにも分かち合いたいという気持ちの発露からでした。それまで(2012年12月まで)も、アズワンではRINKAという地域通貨を使っていました。しかし、次第に、地域通貨にしろ所詮は貸し借り、プラスマイナスの関係に代わりはない、そうした「交換」的関係性自体を荷厄介に感じていったそうです。
そうした折に、先のファームのメンバーの一言が火をつけ、RINKAによる経済関係が徐々に純粋な贈り合いの経済、ギフトエコノミーに転化していったそうです。RINKAは、2013年の12月をもって完全に廃止きれる予定です。必要がなくなったからだそうです。
こうして、コミュニティのギフトエコノミーの拠点「アズワンコミュニティライフストア」には、ファームから毎日取りたての野菜、果物、米などが贈られ、おふくろさん弁当からは、ファームの野菜などを使つた惣菜や弁当などが贈られます。しかも、それらの贈り物は、決して売れ残りや半端物や失敗作などではなく、一般に販売する物と同等の物だということです。また、それらの贈り物に触発された個々人からも、毎日様々な贈り物が届けられるそうです。こうして、約百世帯の人々が、昼2時間、タ2時間の開店時間に押し寄せて、その日の食卓を彩る食材、惣菜を受け取っていきます。
なぜ、このようなことが可能なのでしょう。それは、私が話を聞いた幾人かのメンバーによれば、その基礎に、贈り合いの気持ちが自然に生まれてくるような人間関係があるからだと言います。互いにエゴに囲い込まない、互いの経済状態すらも聞き合うような関係性が、すでに築かれているからだと言います。なぜ、そのような関係性が可能なのでしょう。それがまさに、先の研究所やスクールが研究し実践している、自分の、互いの人間性を深く知る・知り合う内観や対話が、常にメンバー間で為されているからなのです。すなわち、自らの、そしてメンバーたちの「精神性」の探究と共有こそが、贈り合い、ギフトエコノミーの源泉なのです。
彼らは、この贈り合い、ギフトエコノミーを、現在のファーム/おふくろさん弁当/コミュニティライフストアだけでなく、コミュニティ全体の経済にまで行き渡らせたいと考えています。
内観や対話といった、手法は違えど、あるいは違うからこそ、私もまた、そしておそらくはImpact Hub Kyotoもまた、瞑想による精神の探究をもって、彼らの研究と学びと協働しつつ、さらに豊かなギフトエコノミーの実験・実践、Art of Livingの実験・実践をしていきたいと考えています。