2ndCSS「社会・人間・心の“豊かさ”を探る」~科学技術の先にあるものとは~《6》




2nd Crossover Study Session (CSS)
「社会・人間・心の“豊かさ”を探る」
~科学技術の先にあるものとは~ 《6》


これまでの記事
第1回 プロローグ
第2回 何のための研究か? 専門化し細分化している現状《1》
第3回 何のための研究か? 専門化し細分化している現状《2》
第4回 何のための研究か? 専門化し細分化している現状《3》
第5回 人間社会にとって必要な研究とその実現とは?《1》


第6回 人間社会にとって必要な研究とその実現とは?《2》

片山 U理論の研究は、人の内面の変容と社会の変容がどう相関連して起きるのか、そこに関心を向けて研究している人たちではないかという印象があります。
内藤 研究といっても、どんな研究でしょうね? 人の内面とか心とか、見えないことは、研究の実践または社会実装という意味では、難しいでしょう。
 新しい社会・経済の仕組みを創って、そこを動かして見せることで具体的な実践となりますからね。

小野 そうですね。見えるのはそこになるでしょうね。

内藤 研究としては私流に解釈できないことはないですけど。だから、そういう手順を経て、最終的な社会を創り上げる一連のプロジェクトを、若い人たちを巻き込みながらやって見せて欲しいんです。それをやるには、「誰もが役割がある社会」とは、或いは「置き去りにしない社会」とはどういうことなのか? その目指す社会像を明確にすることですね。
 そして、その社会を構成する人はどういう心の有り様か? ここまでは、あちこちで研究会としては取り上げている内容です。しかし現実の社会を、その考え方を前提として作ってはいない。

片山 本当に、そうですよね。



お金が地域から出ていかない経済の仕組みを

内藤 国の次元での政策を進めていくと、それが地域にとってどんな豊かさにつながるのかという計算を、ちゃんとしないといけない。それと関連して地域の経済を回すという課題があって、お金が地域から出ていかないようにするための経済の仕組みがある。まさに、地域通貨「りんか」(以前、鈴鹿コミュニティで運用していた通貨の名称)のような…。 地元のスーパーで買ったらこれだけ乗数効果があって、地域経済が活性化するけど、大手チェーン店で買い物したら、地域内での乗数効果がほとんどない、とったことを枝廣さんが紹介されているような計算して見せないといけない。
 できたらそれを「地域経済貢献商品」というようなマークで付けてやろう、と。
 それを見て地域の人が「それならここで、高いけど買おうか」ってなるように分かりやすくしないとね。

片山 地域の人が関わりたくなる動きをどう作るか、ということでしょうか。

内藤 そのマークをね、実際に各地で今作ろうとしています。

小野 まあそういうのは強いですよね、行政が絡んでるからねー。

内藤 今の時代、「我が家の家計が安く済めばいい」それだけじゃないので、さっき言いましたように、自分の買ったものが“地域経済活性”と“人や地球にやさしい環境”と、それから“社会的な絆”を構築するのにどれくらいの貢献してるかというマークね。
 その3つを今数値化して、エコマークではないですけど、「SDGマーク」みたいなものをつけていこうとしています。
 それを今、我々が実は研究しているテーマの一つなんです。
 いちいち私が言わなくても、うちの若い研究者がそこまで全部フレームを描いてやってくれますから…。

小野 それが実際回ったら、だいぶ、目に見えて違ってくるでしょうね。

内藤 それはもう、大きなインパクトでしょうね。そのラベルが市民の買い物の参考になるようにしてね。

小野 それは誰にでも分かりやすくなりますよ、いいですね。

内藤 今、東近江では市内の活動を100事例ほどリストアップしています。だけど、まだいま言ったような計算までは後ろに付いていません。早くちゃんとした根拠を示したいですから、ウチの研究所のメンバーがそれを1件1件インタビューして回ったりしています。たとえば、知らないといけないのは「原料をどこから買ってますか?」ということからね。変えるのはそういうことですよね。地元のレストランで食たら、地域内の経済が回っていると一見思いがちですけど、実際のところは材料をどこから買ってきているか、調べないと分かりませんから。

小野 そうですよね。地元で食べたり買ったりしても、実は外からほとんど仕入れている、そういうこともありますよねー。

内藤 そういうのでは大したことにはならないです。見かけだけの地域循環でなく実際がそうならないと。

小野 グローバル化時代の今こそ、ローカル経済なんですね。そういうローカル経済の動きっていうのは結構試行されてはいるわけですね。

内藤 そう、あちこちで試行してます。
 先ほど話しに出た、枝廣さんもそうやって各地回られてます。ご本人から、最近出された本を送ってもらいました。いろいろ各地の事例が出ています。

小野 まあ一つの流れにはなって来てるんですね。ローカル経済が。

内藤 なって来てます。着実にね。もういろいろ実践してて、その時にここ(アズワン)はもう卒業された例の地域マネー(地域通貨)をやるとこら辺ですね。
 市長なんかは「ウチは行政からやる」って言って、南淡路市の市長さんが頑張っていますが…。

小野 地域通貨は市がやったら結構な効果あると思うんですね。事実は必ずその地域内でしか回らないわけですから。それは上手くやったら必ずいきそうですね。

片山 グローバル一辺倒でなくローカルへと、その空気が、というか実際が変わり始めて、というのは凄いことかな、と思います。

内藤 凄いことですよ。でもね、裏を返せばそれだけもう行き詰ってきているってことです。ハッキリ言って地域経済なんてもう崩壊寸前ですよ。それをやらなかったら崩壊するしかない。一か八かです。

小野 そうですね。日本中何処行っても外資のチェーン店が並んでいて、同じ店が軒を連ねてますよね。あれに乗ってたら地元の店は全部潰れるしか道はない…。

内藤 そうです。だから就職口はないわね、若い人に。それでみんな大都市に出て行って、年寄りだけ残って。で死んだら年寄りの貯金を都会へ引き上げて。その結果、耕作放棄で空き家はいっぱいできるし。

片山 資本主義っていうか、さっき先生がおっしゃってた“欲ボケ”じゃないけど、心が分からなくなるのかな。
 実際の世界は“総合”が当たり前なのに、セクト守って自分の目先の利益、得するようにって方に行きがちになるとかも、同じことなんですかねえ。

内藤 まあね。結局、「吾唯足るを知る」、がどこまで腹に入るか。
 ただそれは節約して貧しく我慢するっていうのじゃなくて。そのこと自身が豊かに感じられる。もしそれを幻想と呼ぶなら、その幻想をどう持つかですよ。

片山 価値観ですからね、幻想ですよね。この二つの関係については、改めてよく考えてみたいですね。

内藤 そう、幻想ですね。彼ら(アカデミー生)は、フィクションて表現してましたけど、まさにフィクションです。 彼らはよく分かっている。それはもう頭の中のことですから。 だから人間ってフィクションで生きてることになる。お釈迦さんも「全ては空(くう)」だと仰っている。いま流に言えば、“フィクション”または“バーチュアルリアリテイー”ですかね。でもそれで幸せ感を持てば、現実にオキシトシンが出て、実際に健康になるんですね。幻想を持てば本当に健康になる…ということは、難しい課題ですね。
 家畜でもそんなホルモン出るんですよね?

真保 出ます、おっぱいは。哺乳動物はお母さんから、おっぱいもらうじゃないですか。
 それでおっぱい吸われると、お母さんはオキシトシンが分泌されて優しくなるんです。

内藤 あー、おっぱい。上手いこと出来てるんですね。
 ホルモンというのは、何千種もあるんですってね。 先日もテレビで人体のことをやってましたが、骨も心臓も、あらゆる器官・臓器が生理活性物質を出して、それが体中飛びまわって人体の生理をコントロールしているらしいですね。

小野 脳が指令を出しているわけではなくね、各自律的な、『動的平衡』ですね。



フェイクなフィクションの豊かさではなく実際の豊かさがある

真保 ここでもねやっぱり、そういう内面っていうか、その心の豊かさっていうのは、大事にしてるんですけど。
 例えば、お母さんのおっぱいを子どもがもらって、お母さんも子どもを抱っこして、優しくお互いに快適になれるっていうのは、その“快適に思う”のはそれぞれの思いで、フィクションなんですけど、そこにある実際に基づいて、そういう感情を抱いているとも観えるわけです。ただ、全然、そうじゃないものを無理に幻想を抱いてそう思おうとしている訳じゃなくて……

内藤 ないですよね。その実態は一応ホルモン物質としてあるのだから。

真保 実態はあって、人はその実態に即して、心が豊かになっているっていうね。
 ところが、今は、いわゆるフェイクなフィクションのようなもので、豊かになろうとしている。例えばお金が儲かったら豊かになれる、みたいなことが当たり前になってるじゃないですか。
 全く実態が伴わないようなことで豊かになろうとしているのか?
 そういうことじゃなくて、例えば今日ご一緒に食べた夕食ね、中井さんの家でご馳走になった、決して豪華ではないけど、ああこれ今朝ウチの畑から採れたての野菜でね、とか里山からちょうど頂いた山の幸なんですとか実際こうね、目の前で調理してもらって、「ああ美味しいな。旬のもの美味しいな」とか自然に嬉しさが言葉になって出てくる。
 そういう実際に合わせた豊かさ、っていうのを、ここでは本質的なものに目を向けていると、心が豊かになるんじゃないか、実際にあるものが観えてくると自ずと心が満たされてくる、そういう風なことが、人間には元々あるんじゃないかと、考えてたりするわけです。
 ですから、弘子さんが言ったように、内面が豊かになって、それが実際の経済にも現れる。それで、実際の経済も、実際がよくなって、人が豊かになるというような、そこの相互の繋がりが、目に見えて現れてくるのが面白い。実際の経済と、そこで暮らす人の内面。これがね、一つのモデルとしていけるんじゃないかと思うんです。

内藤 そうですね。味わい深かったですよね、今晩の夕食ね。

真保 だからフィクションなんですが、実体、実際に基づかないフィクションではなくて、実際に基づいたフィクションで人間が生きていく、というような、新しいんですが、実は誰でも本来持っている、人間らしい生き方なんです。

内藤 なるほど、そうかもしれないですね。私は理系人間ですから、それで心が、どうなっている、ということをなんとか量的に量りたいと思うんですよね。

小野 あー、そうですね。主観的なものじゃなくてね。

内藤 そうそう。それと脳波ね。脳波とか、さっきのホルモンとか。そういうモノで量って、「あ、やっぱり本当に幸せになってる」と示せたら客観性ありますよね。

小野 そうですよね。そこができないとね。実証できると面白いですね。

真保 あとは、アンケート的な手法もあるんですか?

内藤 そうですね、普通はそれをやりますよ。“豊かさ”とかも必ずやりますよ。第一段階でね。“幸福度”とかね。まずやるのは意識調査です。

小野 最近はブータンで有名になったGNHとか言って国民総幸福度の調査も必ずやってますよね。アンケートかな。計量だけじゃなくて。

内藤 まず一歩ですね。それは数を集めたら、そこそこ客観性が出てきます。
 せっかく、脳波とかホルモンとか科学的に、いろいろ出来るようになったんで、それで実証できるに越したことはない。チップひとつ付けておいたら、その瞬間瞬間の数値が測れるわけでしょ。鼓動脈拍、脳波、ホルモン、それから固有の成分とか、発汗とか。全部心の状態反映してるんでしょうから。

小野 反映してるでしょうね。そういうことも、だんだん解明されてきてるみたいですしね。

内藤 だからそういう客観指標を使う方とさらに説得性があるように思いますけどね。

小野 そうですね。主観をいくらたくさん並べてもね…。

内藤 主観だけでは他者を説得できませんね。最新の技術を持ってすれば、割と簡単に出来るのではないですか。

 つづく

出席者 内藤正明(京都大学名誉教授、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターセンター長)
    真保俊幸(ScienZ研究所)
    小野雅司(ScienZ研究所)
    坂井和貴(ScienZ研究所)
    片山弘子(GEN-Japan代表)

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