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2ndCSS「社会・人間・心の“豊かさ”を探る」~科学技術の先にあるものとは~《8》(最終回)




2nd Crossover Study Session (CSS)
「社会・人間・心の“豊かさ”を探る」
~科学技術の先にあるものとは~ 《8》〈最終回〉


これまでの記事
第1回 プロローグ
第2回 何のための研究か? 専門化し細分化している現状《1》
第3回 何のための研究か? 専門化し細分化している現状《2》
第4回 何のための研究か? 専門化し細分化している現状《3》
第5回 人間社会にとって必要な研究とその実現とは?《1》
第6回 人間社会にとって必要な研究とその実現とは?《2》
第7回 人間社会にとって必要な研究とその実現とは?《3》


第8回(最終回) 新しい社会、心の豊かさの指標を

外から「ひきこもり」に見えても…

 坂井 例えば“ひきこもり”みたいなことでも、今ここで研究実験してるのは、キンダーハウス(チェリッシュ)と言って、乳幼児の自主保育をやっています。 
 保育園や幼稚園には行かないで、お母さん達のグループに、コミュニティーのおじいちゃんおばあちゃんたちや、アカデミー生、ご飯を作ってくれるメンバー、小学生とか中学生のお姉ちゃんたを含めて、見ていく体制を作って自主保育を試みています。始めてもうすぐ3年になりますね。これも内部化の一つだと思うんです。


 それから、何でひきこもるかですが、一番は、学校に行くといろいろと指導されたり、ああしなさいと教育される。「やらされる」「やめさせられる」というのは、普通の意思ある人間だったら、何よりも嫌うことだと思うんですね。動物だって嫌がります。
 それで、ここでの自主保育は、この流れで行くとフリースクールみたいなものになっていくのかなと思います。そういう方向も今親たちも含めて考え始めています。来年もう小学校1年になる子がいるものですから。
 そうすると、今の自主保育、そのキンダーハウスから始まって、次は小学生、中学生くらいの学び舎が出来て・・・みたいな、そういうのも内部化していきそうですね。
 外から見たら“ひきこもり”なんですけど、実際は非常に自由に暮らしている、心理的な圧迫を受けなくてもいい環境の中で、伸び伸びとその子らしさを発揮していると。
 そういうことが既に乳幼児の子たちでは実現しつつあるんですけど、ちょっとこれからは少年少女たちの年代でも起きてくるかな~という情勢になってきています。

 内藤 なるほど~、それは面白いですねー。

 片山 今の話を聞くと、指標を“何で量るのか?”考えさせられます。
 以前、“東京湾を何で埋め立てないのか?”という話の時に、当時はまだ生物多様性という概念が無かった時代だったと思います。だいぶ経ってから出てきた。生物多様性って非常に曖昧な表現ですね。
 子どもにも分かるように表現したら、実は生物って、たくさんの虫やら生き物がいっぱい居て、それらが協力したり繋がっているから、みんな生きられるし、人間も生きられるんだよ、みたいな話ですよね。
 今のキンダーハウスのことでもそうですが、自分たちの新しい価値とか指標とかとも言えると思うんですが、外からは“ひきこもり”という曖昧なものにしか見られない。世間の価値観から見るしかないから、そうなりますよね。
 どんな風に新しい概念が出現してきたり、生み出されてくるのか、そしてそれが周知されるようになっていくのかなって思いますけどね。
 どうしても人が生きていくときには、周囲の環境が不可欠で、そこにはお金とかのやり取りではない、人同士が力合わせて次の世代を育てるのが当たり前というような、なんか出てくるんじゃないですか。新しい指標がねえ。



お金に換えられない豊かさをどう表すか

 内藤 それを数値化しようとすると、もし外の民間保育園へやったとしたらどれくらいかかるかを推定するとかの方法が普通ですね。そういう金銭評価が無いこともないですけど。本当は、金目以外の豊かさをどう捉えるかですね。

 小野 そうですね。それだけには表せない。やっぱり人と人、本当に親しい人同士が、気持ちからやってくれることの豊かさは、お金に換えられないものがありますよね。

 内藤 それをどう表せるかなというのが、これからの課題ですね。

 真保 ただ、なんにも知らない人がまず見るとしたら、数字で表れるような違いから、注目するしかなかったりしますよね。

 小野 そうですね、いきなり豊かだ~と言ってもね。“なんのこっちゃ” ってね。

 真保 だからまあ、実際に味わってる人たちからするとあんまり無意味な数字に見えるかもしれないけれども、それを、実際に見てもらうとなったら、敢えてする必要がありますね。

 内藤 その内部化しているものを全部外注して計算を積み上げて、「ここではもし市場で換算したら、年間1000万くらいの生活をしていることになります」って言ったら、インパクトあるでしょうね。

 小野 そうでしょうね。実際は200万くらいしか使ってないのに、これだけの生活レベルですよってね。

 内藤 それは、愉快ですねえ。

 小野 5年ほど前、ここで地域通貨やってるときに、先生のところのI君がその地域通貨の使用頻度は調べてくれたことありましたね。

 内藤 ええ、あの内部循環の大きさですね。I君が今お話に出ていたことようなことを、もうちょっと体系的にやれば、できたかもしれないですね。
 次にはもっと、ここの豊かさが表せるような研究をしてほしいですね。

 坂井 ほんと内面の豊かさが調べられたらね、大きいですね。ハッキリ違いが出るんじゃいかな。

 内藤 と思いますよね。

 坂井 それこそ、ここでは70代の人達が、普通だったら終末に向かって不安や恐れがあるところを、なんだか楽しんで活き活きやってる。
 中井さんみたいに『理想の暮らしを語る会』なんてのを勝手に起ち上げて「さあ、どうやって死んでいこうか」みたいな。あれ楽しんでるのが誰にでも伝わるね。今は地域医療にのめりこんでて、これはというお医者さんや医療関係者に会いに行くし、地域包括センターの人も巻き込んで、ネットワークづくりに精出してる。次々とアイデア浮かぶみたい。中井さんの内面を量れたら面白いだろうな、と思います。

 内藤 今、精神面の数値化いうのは発展途上だから決定版はなかなかでしょうけどねえ。生理活性物質(オキシトシンなどの幸ホルモンの量とか)、脳波と、発汗、体温、脈拍、呼吸数などを組み合わせて、「幸せ感」といったようなものを数値で捉えてみる。……

 真保 皺(しわ)なんですが、笑う人はこの辺(目じり)にできる、横にね。それである人はここ(眉間)に縦にできる。その数を数えるらしいですよ。

 片山 シワ指数?

 真保 そうそう、笑ってる人たちのシワ、怒ってる人たちのシワ、だいぶん違うらしいから。

 内藤 なるほど、それは面白いですねえ。顔にまで表れるんですねえ。

 真保 でも出来るだけ、表してみる、分かりやすくする努力をしないといけないね。



日々が娯楽に

 坂井 それと一つ思ったのは、“娯楽”のことです。
 僕の個人的な印象ですが、娯楽があまり必要ない感じなんです。そんなにね。娯楽しないと、満たされないとかって感覚がない。
 よく来訪される人たちに訊かれるんです。
「こういう暮らしされてて、ストレス発散は何でするんですか?」って。
「カラオケですか?」「やっぱり飲み会ですか?」とかって。

 内藤 ストレスがないのに発散しようがないですね。ストレスがこの生活じゃ溜まらないというか、そもそも発生しないのでは?

 坂井 結構それ訊かれて、そう言えばカラオケなんて懐かしいな~とか、お酒もそんなに飲まないし、言いたい愚痴もないしなあ、とか戸惑うんですよ。何もしてないなって。

 内藤 訊くのが野暮ですね。

 坂井 だから娯楽費が割に出ない。これも“外部化”しないところかな。まあ、行くのはその人の自由ですから、カラオケ行く人も、山登りに行く人もいますが、単純に愉しんでるだけかな。

 内藤 日々娯楽ですね。

 坂井 そんな感じですね。
 先生が話をされたアカデミー生たちでも、リビングに合うような大型テレビがあったんで、最初テレビを置いたらいいかなって考えて用意していたんですけど、4月の引っ越しの時に「いらない」と言うんですよ、みんな。
 「え~、せっかく用意したのに~。ホントにいいの?」って訊いてみても、誰も置きたいって言わないんです。だから結局置いてなくて、テレビも、まあ娯楽の一つだと思うんだけど・・・

 内藤 あそこであれだけ若い人が居たら、もう、コミュニケーションが豊かでしょ。

 坂井 そうなんです。よ~く話してるみたいです、組み合わせはいろいろで。

 内藤 テレビを一人、見てたらね、逆に寂しいと思いますよ。テレビ好きで、じっと見ててもね、まわりで、ほんとに楽しそうに会話してたら、そっちに気が行くわね。そうすると、やっぱり孤独だからテレビが要るんですよね。

 坂井 そうですよね。あの環境のなかでは、必要ないんですね、彼らには。

 小野 確かにそうですね。娯楽費とかは少ないかもね。

 内藤 「娯楽は?」なんて訊かれても、「最近、日々娯楽してます。“日々是娯楽”」と、それでいいんとちがいますか。

 片山 先生にそれ書いてもらって、お茶室の軸かけてもらおうかな。

 小野 「足るを知る」っていうのも、「清貧の思想」とか「モノが有り余ってる中で我慢する」イメージじゃなくて、日々がもう満足とか、それ自体が楽しいみたいな感じもしますね。

 内藤 そっか、そのうちそういうことを創らないといかんな、新しい文化として。

 坂井 その吉田順ちゃんって70歳くらいかな? 聞いた話だから
実際は知らないけど、なんか昔ずっとパチンコにはまってたらしくて。毎日行かずにはいられないみたいな・・・
 今はなんか全然、行こうとも思わないみたいな感じで。
 最近は、お弁当屋の営業の合間に、海、山、川、花とか綺麗な写真を撮って、みんなに見てもらったり、自分達で作品展開いたりね、写真の撮り方のレクチャーもやってくれたりもしたね。あとは絵を描いたりとか、その日の心境をブログに綴ったりとか、そういう感じだね。なんか心が満ち溢れているように見える。
 昔パチンコ止められなくて困ってたとか、今では想像もつかないけど、そういうのもやっぱり現れなんでしょうけどね、心のね。

 内藤 分かる気がしますね、確かにね。それは何なんだろうって突き詰めると、やっぱり人と人との関わりが大きいですよね。
 よく脳が“止められない中毒状態”になってるとかも言うけど、人同士の関わりが全てですよ。だからそれを逆に断ち切ったら、パチンコするしかないし、テレビ見るしかないしね、孤独にね。



かつて日本は“子ども天国”だった

 小野 そうですよね。先生が先日送ってこられた資料の最後に、“日本人の美しさ”みたいなことを書かれていましたけど、多分昔の日本は、そういう“人情”はすごくあって、なにせ子どもが素晴らしかったって言いますよね、あの頃の子どもって。多分そういう環境の中で育つことが大きかったんでしょうね。

 内藤 幕末、明治に日本に来た外人さんは、日本人は見たところ貧しいのに、どうしてこんなに幸そうに暮らしているのか。特に子どもが幸せそうに見えるとね。周囲の人たちに見守られ、可愛がられていたのでしょうね。『子ども天国』ですよ。

 小野 多分人と人との関わりがもっと密だっただろうな、ってのはすごく思いますよね。
そこで心が満たされたら、物も、必要なものは必要で、あると思うんですけど、そんなにね、たくさんはなくても、あるものがあったら満足って、そういうのがあったと思います。

 内藤 そういう…満たされないものの、代償行為なんでしょうね、必要以上にモノを欲しがるとか今の娯楽とかは…。

 小野 今の資本主義はそこを逆に、心理的ストレス加えてモノを買わせようって、多分そんなことの研究をずいぶんしてるんじゃないかって思います。

 内藤 ものすごいしてるでしょうね。広告、街中に貼り巡らして、テレビやネットで繰り返しCM流してね。

 坂井 それで面白いと思ったのが、ガイアエデュケーションの公開講座でインドのシータさんていう学者さんが来られて、無意識と意識のことを話されてたんです。人間の言動の、実に95~99%は無意識からのもので、その無意識が主に形成されるのが乳幼児期なので、そこに力を注いでいるというような内容でした。
 サイエンズ研究所でも研究してきている、人の内面と関連するテーマだったので、とても興味深く聴かせてもらって、あとでもっとその研究内容が知りたいなと思ってネットを検索したんですね。「人間の言動 意識 無意識の割合」とかのキーワードで。
 すると、たくさんヒットしてくるんですけど、その殆どが広告に関することなんですよ。

 真保 え、どういうこと?

 坂井 つまり、モノを如何に買わせるかのポイントは、意識ではなく、無意識にどう働きかけるかだ、と出てくるんです。人間の言動は95%以上、無意識に支配されていると研究結果があるから、その無意識への働きかけが広告、宣伝、営業の肝だと。
 正直、ビックリしたよね。僕が知りたかったのは、その研究の中身だったんだけど、それに関することは全くなくて、モノをどう売るかの話ばかり。
 こういう本質的な人間の内面の研究も、販売戦略に使われるのが、今の資本主義なんだなあと。

 内藤 現状はそうですね。根本から、見直さないといけないと思います。でないともう地球はもたないことは明らかです。そのためにも、ここでももっと社会実験を進めていただきたいし、決定版でなくても、現れてきている実態を誰にでも見える形で。説得力あるものとして表していきたいですね。
 アカデミー生とか、若い人たちも集まってきて育ってきてますから、これからが楽しみです。(おわり)


出席者 内藤正明(京都大学名誉教授、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターセンター長)
    真保俊幸(ScienZ研究所)
    小野雅司(ScienZ研究所)
    坂井和貴(ScienZ研究所)
    片山弘子(GEN-Japan代表)

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