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おふくろさん弁当10周年記念まつり



おふくろさん弁当10周年、何が実現されているのか
―― 人が育つ職場とは?
   《記者・いわた》

5月で開業10年目を迎えた「おふくろさん弁当」。今年は、10周年記念まつりとしてスペシャル弁当を3日連続で販売しよう!と計画していた。毎月1度、「スペシャルの日」と称して、豪華なお弁当を通常価格で提供している。人気もあって注文数は平日よりもグンと多いスペシャル弁当だ。もちろん、調理する方も配達する方もいつもより人手がかかり大変ではある。それを限定1500食で3日間連続でやってみようと企画したのだった。

予想を超える注文数で、当事者たちも驚いていた。3日連続で頼む客が多かったと。そして、「事件にならない事件」が、最終日に待っていた(こういうエピソードは、『幸せを運ぶ会社・おふくろさん弁当』の本にも満載しているのでそちらもご覧頂きたい)

命令・強制、やって当たり前がない

その話題の前に、この3日間がどのように大変だったか、関係者に聞いてみた。いつも配達をしている玲子さんの話。

「今まで、月1回のスペシャルの日は、なんとかみんなが回り合って成り立っていた。今回も仕込み調理、盛り付け、配達と、通常の倍近い量。コースも通常の9コースがプラス7コースも増えた。お休みの人も、この日は駆けつけてくれて、配達に入ってくれた。」

おそらく、こういった人の動きを部外者からみると、関係者がやっている事業を「力を合わせて、みんなでやるのは当たり前のことでしょ!」と思う人もいるかもしれない。
たとえば、会社で企画したイベントの場合、社員の立場なら、そこは働いて当然という空気になるだろう。会社も命令で従わせようとする。
そういった考えで、この「おふくろさん弁当」の会社を見る人がいるとすれば、大きな間違いだ。



自発的に自由意志で成り立っていく

3日連続、スペシャルDAYをやりたい、と思ったのは、弁当屋の一部の人たちで、社員やコミュニティの人たちが、「よし、やろう」と思うかどうかは、まったく別のことだ。
やりたい、とか、やろうと思うのは一人ひとりのこと。「命令や決まったことだから」と人にやらせることは出来ない。
玲子さんは、それを聞いたとき、「ヨシ!」と思ったという。
しかし、3日連続は、ちょっと大変だなあ、とも。

3日間をどう成り立たせたらよいか考えた。いつも配達の岡部さんも2日間いない。その日が定休日の社員さんもいる。マイナス条件も浮かんでくる。
そういう人たちを強制出勤させるとは出来ない。
それでも配達メンバーがプラス7人集まったそうだ。これには玲子さんも驚き。
サッキーも金曜休みだったが助人に入り、飛び地の配達をしてくれた。マミーの純ちゃん、本山さん、船田さんも、吉田さんも入ってくれたと。

こんな動きが、命令ではなく、本人の自発性や自由意志によって成り立っているようだ。その一人ひとりの内面はどうなっているのか、あらためて不思議でもある。
命令で動くのではなく、何にで動いてるのだろう?
どんな自発性なんだろう? 何を願ってのことだろう?



負担にならない小さな力の集積

インフォメーションと呼ぶコミュニティの職場がある。そこにいる敏美ちゃんも、この日は、短時間だけお弁当屋さんに助っ人に入った。
「いつもミーティングで一緒のEriちゃんやOさんがお弁当屋さんにいて、協力したいな、って気持ちはあるんだけど、前もって、職場で段取りして行くのも大変だし、何時から入りますって連絡して行くのも窮屈な感じ。LINEで盛り付け大幅に遅れてるって見て、あ、行こうかなって、入った」

約束したり予定を決めると、それを負担に感じることがある。気持ちのある人がその気持ちのまま行動出来るような受け入れやすさが弁当屋にあるのだろう。
そんな一人の力は小さくても、結集できる懐の大きさが「おふくろさん弁当」のポテンシャルになっているようだ。

携帯のLINEに入る弁当屋の状況に、それぞれが思い思いに反応し応えていた。



事件にならなかった事件

そんな3日目のこと。「事件にならない事件」が起こった。
その日は特製の手こねハンバーグ弁当。盛り付けも順調に進み、仕上がりも佳境のころ。最後の弁当のフタを担当するヨーちゃんが、弁当の入ったコンテナを思いがけずにヒックリ返してしまった。その時の様子を当人が話してくれた。

「その日すごく調子よくって、どんどん次のお弁当がきちゃうから、コンテナが一杯になったら直ぐ積んで、直ぐ積んでってやってたら、グラッとして、ガシャンって。すぐに、みゆきさんが、『助けてあげて!』って言ってくれて、他の人がみんな来てくれて、すぐに再開出来た。絵里さんとかみゆきさんとか、周りの人たちが全部片づけてくれた。
その後、落ち込んで、やっちまったーって。
でも怒られてたら、その後の作業やりたくないって思ったかも。今は、次はこうしようって思えるかな。周りの人は、こんなこともあるし、大丈夫よ、気にするなって感じ」
いつも陽気なヨーちゃんも、この話のときは、そのショックの大きさを隠せないようだった。(取材に応えてくれてありがとう)



子から親の立場に

改めてこの10年を岸浪知ちゃんに振り返ってもらった。どんなふうに変わってきたのか。

――端で思うのは、『規則も命令も上司も責任もない』会社や職場が出来てきたことではないですか?

知子 そうね。今は留学生や新しい人がどんどん入ってきていて、今は受け入れて用意していく立場になった。親のような役になってきている。
子育てと一緒で、子育てしながら親になっているけど、職場でもそんな感じ。
自分が子どもの立場でやっていられる時代は終わった。その親っていう立場も探りながらやっている感じだけど。
新しく入ってきた人にどう?って声かけたり、『腰が痛い』とか、『寝られない』とか、そんな声を聞くと、作業台の高さを上げてもらったらいいかなって本山さんと相談したり。

そうやってその人の実際面や気持ちの面を見ているかんじかな。
自分も、『どう?』『無理しないでね』ってみんなに声をかけてもらってきて、今度は自分が声をかけている。



――留学生とかも職場で変わっていくのかな?

知子 留学生で最初暗い感じでやってた人も、だんだん明るい感じなってきたり、ブラジルからきたジェーゴも、言葉が通じ難いのもあるけど、今は、通じ合っている感じがする。職場だけでなく、山登りしたり、家のバーベキューに呼んだりして、公私混同でやっているうちにだんだん明るくなってきた。嬉しい。
10周年祭りやって、ハードルを越した感じで、通常に戻ると余裕が出てきた。
今日も余裕シャクシャクって感じで、平日がすごくラクに感じる。

形にみえない実績

10周年祭りは、注文数に応えられずにそうそうに完売したという。それはそれで大成功だったようだ。その喜びも大きいが、そこにだけでは見えない喜びを知ちゃんの話で聞けた。日々の中で、人が、子から親へ成長していくことの大きさをしみじみと。
子どもは与えられて育っていく。その子が成長し親になると、与えて育てる立場になる。人の場合の「育つ」とは、何が?どこが? 育つことだろう。もっと探究してみたい。
そんな、「人が育つ職場」が出来ていくことが、何よりも大きなことだ。売り上げだけには見えない、実績かもしれない。
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