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コミュニティ歳時記7月号「大きな少年たち」

なだらかな階段を上り、堤防の上に立つ。
眼前に広がる大海原。
"Ach, es ist das Meer~"
感嘆の声をあげる3人の大男たちを、潮風がやさしく包む。
"Oh, es ist eine weiße Welle"
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※写真左からパトリック・アレックス・アンドレ(スイスから来訪)

あちらでもこちらでも打ち寄せる白い波に、“生きている海”を実感する。
まるで引き寄せられるかのように、Patricがテトラポットを伝(つた)って、砂浜に降りていく。ほどなくAndre、Alex、僕も後に続いた。
先に砂浜に着いたパトリックは、早々に靴と靴下を脱ぎ、スラックスを膝上までたくし上げ、やる気満々の風(ふう)。そこから、大男3人は瞬時に“少年”となって海と戯れ始めた。
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波打ち際に行って飛び跳ねたり、貝を拾ったり、釣りをしている子ども達に話しかけたり、1時間近く裸足で砂浜を歩いたろうか・・・
山に囲まれ海に面していないスイスの3人にとって、そこは格別の味わい愉しみがあるようだった。それが、単に見慣れぬ海のせいだけではなかったと気付いたのは、暫く経ってからのことだが・・・

パトリックとは青年期に、かつてない新しい社会を模索する道中で出会った。もう30年来の友人で、お互いの子ども達が同級生だったこともあって親交を重ねてきたが、こんなに弾けた姿を見たのは初めてのことだった。
放っておいたら、そのまま名古屋の港まで辿り着きそうな勢いだったので、
「さあ、大きな少年たち。そろそろ、帰ろうか~」
と声をかけた。

その前日まで、アンドレとアレックスは、鈴鹿で開かれた6月度アズワンセミナーに参加していた。観光やビジネスが目的ではなく、セミナーの1週間を体験するためだけに、遥々スイスから海を渡ってやって来たのだ。パトリックはその通訳として入っていた。
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※スイスの3人が参加した【6月アズワンセミナー】

アンドレは、スイスの地で、30年以上も戦争や諍いのない平和な社会を創ろうと活動し続けてきた人。そんな彼にとってもセミナーでの体験は衝撃的だったようで、
「今まで、頭ではそういうことだと分かっていたつもりのことが、初めてズシンと心に入ってきた。今までのことは今までのこととして、ここからは本当にゼロからやっていきたいんだ」
と“やさしい赤鬼”のような面持ちで心の裡を曝(さら)け出した。
37歳のアレックスは、同年代の人たちも学んでいるサイエンズアカデミーに惹かれるものがあったようで、
「スイスの仲間やパートナーに送り出してもらって、鈴鹿にまた帰って来たい。今の僕にとってはアカデミーで学ぶことが、本当の自分を取り戻していく最短の道なんだと思う。」と。そんな風に語る二人の瞳は、海と戯れている時以上に、少年の輝きを放っていた。
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※滞在中はアズワン鈴鹿コミュニティメンバーと会食をともにした

パンデミックもひと段落した気配の中、こうして国内のみならず海外からも、鈴鹿コミュニティに訪れる人が増えてきつつある。
SUZUKAファームの野菜仕上げ場でも、新たに入学したアカデミー生や体験・実習プログラムの参加者などで、大賑わい。

そんな中、或る“事件”が勃発!
10年以上前のファーム創設時からのメンバー・俊幸君が、その賑わう仕上げ場にひょっこり顔を出した時のこと。いきなり或る青年女子から、
「あの~初めて体験で来られた方ですか?」
と声をかけられたのだ。
「いや~、実は10年くらい、ここでやらせてもらってるんですけど~」
これには、一堂大爆笑。
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※SUZUKAファームの谷藤俊幸君と娘の「はなちゃん」

俊幸君は、主に 田んぼや畑の作付け・管理・収穫などを専門にやっていて、外回りをしていることが多く、仕上げ場にいつも居るわけではない。まあ、どこの職場や集まりでも新入社員とかが多いとき の“あるある”なんだろうが、とは言え笑える。
「ファームでこんな顔の黒い、日焼けした新人おらんやろ~」
とは、俊幸君の弁。
ちなみに、ファームで賑わっているのは人だけではない。トマト、キュウリ、ナス、ジャガイモなどの夏野菜が本格的に採れ出している。真っ赤な完熟トマトを皮切りに地元の愛用者たちからは、朝採り野菜が喜んで迎えられている。

コミュニティを最近何度も訪れている一人が日野進一郎さんだ。(通称・日進さん)
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※アズワンネットワーク岡山の「日野進一郎さん」もペンキ塗りに参加

先月歳時記で紹介した屋根のペンキ塗りでもコミュニティメンバーに混じって大活躍。
というか、誰よりもペンキ塗りを自分事として愉しんでいて、
「僕はこのペンキ塗り、やり終わるまでは帰りませ~ん」
と結局滞在を延ばして、最後まで見届けた。とても70歳を越えているとは思えない身軽さだ。
『日野環境デザイン研究所』の一級建築士でもある日進さんは、その前後も二度、三度と手弁当で岡山から駆けつけてくれて、コミュニティの建物・施設の設計を担当している。
「日野さん、やっぱりここのところ、もっとこんな風に出来ないかなあ?」
耕一君、龍君を始めとしたコミュニティ若手メンバーからの度重なる無理難題と思える注文にも、
「ああそれね、確かに面白そうですね~」
とか言いながら応えている。そんな受け応えを通して、日野さんの中から眠っていた何かが引き出されてきているのを感じる。
「もう、図面の書き直し、これで9回目ですね~・・・こんなこと今までなかったなあ~」
と嬉しそうに語るその姿も、まるで少年のよう。
熟練の技が、その少年の心と相俟って、どんな建物が建てられていくだろうか。
そして一昨日、
「こちらでは本山さんがダイニングの増設工事を始めますよ~!」
とメールしたら、
「そうですね。本山さんの姿を思い出したら、ウズウズしてきたので、こっちの雑用を済ませたら行きます!」
と返信が来た。日進さんの勢いも、留まるところを知らず。
まさに、『日進月歩』~

動物は“本能のままに”生きて、当たり前。
人間は“本心のままに”生きて、当たり前。
じゃあ、“本心”ってなんだろう? 
心からの欲求、意志、気持ちって、どんなものかな?

よく反発とか抵抗とか反骨とか嫌悪とか言ったり、聞いたりするけど、
“心から反発、抵抗、反骨、嫌悪してる”人って、自分を含めて見たこと無い。そんなこと出来る人、一人も居ないんじゃないかな。
何かに反発したり、抵抗することはあったとしても、“心の底から”って程のことじゃなさそう。実は、とっても表面的だったりして。
私が“心から”したいことって?
あなたが“心から”したいことって?
“少年のような心の人”は、本心と開通・直結している人の姿かな。
シンプルに、心からの欲求、意志、気持ちだけで、お互いに生きていける環境だったら、どんな一日を送るんだろう、そしてどんな人生になっていくんだろう。
それさえあれば、誰もが“本心のまま”に・・・
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海を見に行った翌朝、パトリックは始発の電車に乗りたいというので、5時頃駅まで送っていった。東京で一仕事して、夜のフライトで羽田からチューリッヒに飛ぶと言う。車中、この5月にアカデミーに入学したパトリックの愛娘Juliaの話などしながら。
「ゴツン!」
いつも、申し訳なく思うのだが、190㎝を優に超えるパトリックには、日本車は小さ過ぎて、降車の時にどうしても頭をぶつけてしまう。
改札の前で、
「パトリック、いよいよ7月にはスイスでのセミナーだね。」
と声をかける
「はい、そうですね~」
と飄々とパトリック。
「どうなるかなあ、楽しみだ~」
と手を振ると、
「そうね、なんとかなるでしょう~。またね!」
と悪戯(いたずら)っぽく笑って、踵(きびす)を返した。
7月17日から、ヨーロッパでは初めてとなるアズワンセミナー。
日本とスイスを行き来し何年にも亘る準備を経て、パトリックが開催する。
アンドレやアレックスのサポートのもとに。
このセミナーを端緒に、ヨーロッパの片隅から広がっていくであろう新たな地平。
その胸の内には、もう既に描かれているものがハッキリある、そんな足取りでパトリックは駅のホームに消えて行った。
「いずれアカデミーを出発したら、お父さんと一緒にヨーロッパでセミナーをやっていける人になりたいんだ。」
そんなJuliaの言葉が、大きな少年Patricの背中を押しているようにも思えた。
”Wir sehen uns wieder, Brüder”


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※スイスの風景 7月にはスイスでアズワンセミナー初開催の予定です。
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