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必要に応じて賃金を与える

6月27日~7月1日まで、韓国からアズワンコミュニティを訪れたノンシル人文学校理事長イ・ナンゴクさん。
韓国では有名な社会運動家で、最近では「進歩を研鑽する」「論語を研鑽する」といった著作も発表し、人文運動を展開しています。今の人類から一歩アップグレードした新しい人類社会を模索しています。
ナンゴクさんは、昨年8月に韓国江華島で行われた「自分を知るためのコース」にも参加しています。

初めてアズワンコミュニティを探訪したナンゴクさんが、韓国の新聞にレポートを掲載しています。そのレポートを紹介したいと思います。
(この文はハンギョレ新聞のホ-ムページとイクサン(益山)希望連帯のホームページに載せられたレポートです。
今回の通訳のイ・スンヒョブ君が翻訳してくれたものを、編集部で手直ししました)


必要に応じて賃金を与える
イ・ナンゴク
日本の鈴鹿で益山(イクサン=韓国全羅北道の市)の希望連帯を思い出す


【里山で】

6月27日から4泊5日間で、日本の中部の名古屋の近くにある人口20万人ほどの鈴鹿という所に行きました。去年ノンシル人文学校でも一度来て紹介をしてもらったアズワンコミュニティという新しい地域社会づくりの実験が進行中の所です。

カルチャーステーション、農場、いろんな場所にあるコミュニティ食堂、サイエンズスクールという一種の研修機関、お弁当会社を含めたアズワンカンパニー、RINKA(一種の地域貨幣)事務局などを訪問して、何回かの懇談会をしました。

コミュニティの構成員が何人いるかよく分からないし、全ての場所が市内のあちこちや街の真ん中に散らばっていることが、おそらくこのコミュニティの性格をよく表してると思います。

自分がコミュニティの構成員であるかないか分からない人が増えていくことは、まさにこの人達が<形態のある共同体>ではなく、一般社会との境界のない(これをここの人達は無辺境と言います)コミュニティを創っていく様子ではないかと考えられます。


【初めての懇談会の様子】

コミュニティを日本語で訳して使わずに、英語でそのまま使うことも、共同体などの用語が閉鎖性を持つ感じを与えるからだと思います。あえて訳すると、地域社会ぐらいではないかと答えをいただいたけど、それは最近の韓国の農村と都会で活発に行われてる村共同体作りを連想させます。

特に私には鈴鹿でいろいろ行われてることを見ながら、市民達の自発的参加と民官ガバナンスが先駆的に行われてる益山(イクサン)と、その主体の一つである希望連帯が脳裡から消えませんでした。

参加人員や地域社会との接触水準、民と官の協力の程度はむしろ益山の希望連帯の方が幅広いところはあるけど、その目指す社会像や人間像がハッキリしてるところは、私達が見習って進捗させる部分であると思います。

事実、アズワンコミュニティの主体で活動してる人達は、50年以上にわたり無所有一体社会という理想を目指しての活動の歴史の中で育った人達であります。それはすごい力でありながら、同時に一般社会の中に溶け込むには超えるべき課題も多いと思われます。


【参加者の記念撮影】

目指してる明確な目標があります。それは
「金に支配されず」
「常に会う人達とどんな言葉や行為を交わしても、つまりありのままの自分達を出しても仲が悪くならない」
「だれも直接的、間接的に押し付けられたり、邪魔されずに、まるでまわりを気にせずに、おもちゃの組み立てに没頭している子供のように楽しく働く」
そうしながらも
「老後を心配したり、生存を心配したりせずに、安心して暮していける社会を作っていこう」
とすることです。

しかし今の資本主義の社会を否定せずに(観光をコミュニティのメンバー3人にガイドしてもらったけど、入場料や食事代を韓国でやるように一緒に計算したら、ムキになって割り勘にしようとすることを見て、私達一行が驚くほどに)、個人の家で個人的な暮しをしながら、その中で心が先に進んだ人達が自分のやりたいことをしていくことを通して、ちょっとずつ、そういう理想に向かって進む社会的気風とシステムをつくっていくような感じです。

先ず思い浮かぶ何個かの例を紹介してみたいです。ここの人達が作った会社がアズワンカンパニーですけど、その中には不動産、農場、建築、便利屋さん、お弁当屋などがあるけど、お弁当会社の繁盛に影響を受けたのか、そこの代表で仕事をしてる人が最近”回転寿司屋”を作ることに集中しているという話を聞かしてくれました。


【鈴鹿カルチャーステーションの手作りショップコーナー】
(地域社会の誰でもある程度の料金を出せば使用可能)

このアズワンカンパニーの一番大きいテーマは、<会社のための社員や従業員ではなく、社員と従業員のための会社>ということです。「おふくろさん弁当」という名前でお弁当会社が一番盛んであるけど、パートを含めて50人ぐらいが働いていて、今は三カ所の店舗で一日1000個ぐらいのお弁当が売れています。

しかしここの給料の体系が一般と違って、労働の量によってじゃなく、従業員の必要(家族等)によって、お互いが話し合って決めています。

また地域通貨の一種のコミュニティ通貨RINKAを使っていたけど、法定の貨幣である円と同じ価値として通用されていました。コミュニティ食堂とか、コミュニティの農場の生産物とか、お弁当などを、全額をRINKAで支払いできるし、最近はRINKAの比率をより高くして月給をもらう人達も増えているそうです。いくらでもマイナスで使えるので基本的な生活は保障されているようでした。(ある人は自分が20万円ほどのマイナスになるまで使ってみて、周りからどれだけ暖かく愛されているかを実感してるという話をしました。)150人ほどがRINKAの会員であり、一ヶ月の流通量は平均250万円くらいだそうです。


【農場で会った人達】

私達の中の一人が、こういう形を「ままごと遊びみたい」と表現したけど、それは何か皮肉を言うのではなく、こういう遊びがあちこちで行われて、結局「金の要らない社会」に進めるのではないかという素直な心を込めて言っているようにみんなには聞こえました。

鈴鹿カルチャーステーションという所は地域社会との交流と疎通の場として拡げたいコミュニティの人々の思いが込めてあります。

手作りの物を売っている場所、子供達の放課後教室、学習塾、一日農業体験、里山での遊び、茶道教室、華道教室、太鼓教室、絵画教室、そして街の縁側づくり等、いろんな活動をしていいます。

官が主導する所はカルチャーセンターという名前を使うけど、ここは徹底的に市民が中心となって、疏通と出会いの場という意味でステーション(駅)と呼んでいます。

カルチャーステーションの学習塾を含めたいろんな活動のベースとなるのは、「学ぶことは本来楽しい」「知っていくことは本来楽しい」「成長することは本来楽しい」ということが特色でした。


【おふくろさん弁当の内部】

農場も若い人達が7人が集まって、Suzuka Farmを運営していて、その横に子供達の農業体験場、シニアグループのベジコミくらぶの畑等があり、いわゆる里山という村と山の中間地帯では、私達がよく見ることができる捨てられた野山を活かしてそこに子供達の遊び場、大人達の憩いの場をつくり、意味をもたらす、そういう夢などが素朴に繋がっている様子を見ることができました。

ある面では鈴鹿でやってることが、物質主義と利己主義が支配している世界(こういうところは、日本も韓国もその他ほとんどの国も一緒です)では、子供のままごと遊びのように感じるかもしれないけど、世の中はこういう遊びによって拡がり変わっていくのではないでしょうか。

近しい人達が最初は軽い雑談のように話し合っていつのまにかそれが夢に成長し、現実で姿を現すことができたらどんなにいいでしょう。それも市民達の、それもお母さん達の手で、あちこちの縁側で・・・。

そして一つ欠かせないのは、こういう社会を創っていく核心として、やっぱりそれを望んで、そしてそれができる人達が育つということだけど、鈴鹿のアズワンコミュニティはそれがエンジンとして機能しています。

ここ鈴鹿での社会づくり緒試みで、最初に始めた仕事の中の一つがサイエンズ研究所と、サイエンズスクールという研修機関を作ったことです。


【サイエンズ研究所メンバーとの懇談会】

ここでは人間と社会の本質的な面に対して探求して、生活と組織の中で実践してみて、またフィードバックする過程が有機的に行われていました。

いろんな所を短い期間に見回り、誠実で親切にしてくださったコミュニティのメンバーのおかげで、私達はその心をよく感じることができました。

私はどんな所に行ってもイクサン(益山)の希望連帯の姿が目に浮かびました。今まで市民運動の新らしいモデルを作ってきた希望連帯がより内容が深まり、広がる未来を画くことができます。

希望連帯が主体的に試みことができることもあるだろうけど、会員の中で志が集まった人達で新たな円を作っていき、この円と円が縦と横で繋がってイクサン(益山)という地域の暮らし全体がアップグレードする夢も持つことができるでしょう。学んで、研究する集まり、心を豊かにするプログラムが別々にあるのでなく、現実の生活の中に溶け込んで常にフィードバックされる様子、働く人のための会社、競争じゃなく協同の、自発的で自律的な労働によって維持される適切な生産力、近隣の農村と都会の暮らしが自然と繋がる循環共生の社会、こんなことが希望連帯の会員達によって始められ、拡げられたらどんなに幸せだろう。
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