【新連載】コミュニティ歳時記 12月号

【家族の風景・・・そして家族以上の】

まだ現役で働いている父が90歳になった。
創業145年の零細企業を経営している三代目だが、さすがに来春いったん会社を閉じるというので家族会議の招集がかかった。

平日だが、思いのほか車内は混んでいた。
晩秋の行楽に出かけるグループだろうか、賑やかな会話が飛び交う。
「・・大きな声での会話は、他のお客様の迷惑となりますので、ご遠慮ください・・」
というタイムリー?な車内放送に思わず失笑する。
後部座席の老夫婦は、想い出を辿る旅の最中らしい。奥さんの声ばかり聞こえてきて、時折交わされる二人のやり取りもどこか噛み合わない。
「お父さん、ほら見て!御岳山よ。」
「おぉ~」
ほんの数秒だけ見える、その一瞬を二人は愉しみに待っていたようだ。
「わぁ~何十年ぶりかしら。懐かしい~。この景色が見られただけで、もう満足!」
「そうそう・・・」
相変わらず旦那さんは口数少ないが、この時ばかりは、二人の呼吸が合っているように聞こえた。
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2年ぶりに仰ぎ見る常念岳。
なにか物足りなさを感じながら家路を歩く。
そうか、この時季なら頂に雪を冠している筈と、脳裏には子どもの頃の景色が浮かんでいたのだった。地球温暖化とやらの影響もあるのだろうかと思いは巡る。
家の勝手口を開けると、一足先に着いた兄が真っ先に迎えてくれた。
東北で医師をしている2歳年上の兄は、パンデミック以降ずっと働き詰めだったが、社会もやや小康状態となった今がチャンスと、思い切って1週間の休暇を取ってきたと言う。

仏壇に線香をあげ、お土産を供えていると、
「さあ、先ずはお昼ご飯にするだ。」
と台所から母の呼ぶ声がした。
途中、父も出先から帰ってきて、家族4人で食卓を囲む。
「なんだ、あのコーヒーカップ。色褪せてるじゃん。僕らが中学生の時から使ってた年代モノだよ。もう捨てた方がいい。」
と、古い食器棚の中を指さしながら、兄が言う。
「どれ?あれか~。あれは良いモノだから、捨てるわけにはいかねえ。まだ取っておくじゃん。」
と父が応える。
「そういうこと言ってるから、要らないもので家の中がいっぱいになって、何も片付かない・・・・・」
兄の力説にも怯まず、やり取りしている両親の様子をうわの空で聞きながら、
“こうして家族4人で過ごすのは何十年ぶりのことだろう。兄が大学で仙台に行き、僕も東京に行き、その後それぞれの子ども達交えて盆や正月に会することはあったが、両親と4人だけというのは子どもの時以来かもしれない”
と顧みたりしていた。

4代目になる気など毛頭ない兄と僕はずっと故郷を離れて暮らしていて、その間近くに住む母の甥や姪が随分と気をかけてくれて頻繁に足を運んでくれていたこと、司法書士さんや税理士さん、議員さん、出張販売の人、多くの友人隣人が両親のことをサポートし続けてくれていたことを知った。
数日かけて、家の片付けや会社の整理をしていると、子どもの頃は知らなかった、というか知り得なかった父や母のいろんな顔を改めて観ることにもなった。当時は、悲しいとか苦々しいとか腹が煮えくり返るとか、身や心を摺り減らしたことも、今となっては全部面白可笑しい、笑い種になって、4人で笑い転げた。
ただ、片付けや整理はまだまだ続きそうだ。
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鈴鹿に戻ってきて、サイハテヴィレッジからコミュニティのツアーに来た坂井勇貴君と工藤シンク君に会った。
2人とも初対面。
坂井君は姓も同じで、名前もよく似ているので、他人のような気がせず話しかけてみる。
そうしたら、勇貴君のお母さんと、僕の父方の郷里がものすごく近いことが判明。
何代か遡ったら、きっと親類に違いない。
その坂井君と工藤君と鈴鹿コミュニティの小野さんとの対談が先月公開されたとき、
「コミュニティの人と人の間柄は家族のようなもの、いや家族以上かな」
というような一節が妙に心に残った。

家族ってなんだろう?
社会の最小単位とも言えるのかな家族は、その家族がどんなかによって社会も変わるのかな?
例え家人の一人が世間で受け入れられない事をしでかしても、そうするからには止むに止まれぬ事情があったのだろうと責め合うことなく庇い合う紐帯ともなるし、いや家族とはこうすべきものとお互い同士を縛り合う鎖にもなるし、現状の家族には様々あり過ぎて、元々どういうものなのかが判然としにくいかも知れない。
そして、家族以上ってなったら益々どういうことなんだろう?

鈴鹿コミュニティのツアーを終えたシンク君が、
「みんな本当に仲が良いんですね。本気で真剣にやっているけど、“てきと~”なんですね。」
と言っていたとか。
たまたま昨日、政府の発表があって、11月8日から緩和された外国人の入国が再び全面禁止となった。このパンデミックで1年サイエンズアカデミーに戻るために、入国を待ち続けていた韓国のジョンイン、8日から超特急で査証申請手続きを進めて12月11日に来日予定だったが、それもタッチの差でボツになってしまった。残念だが次のチャンスを待つ他ない。
今朝のニュースで、海外からの技能実習生を受け入れている建設会社の社長さんが、
「この政府の決定は痛手です。貴重な外国人の働き手を、国内で何とか賄うことは不可能です。仕事をお受けできないケースも出てきます。」
と言っていた。
“僕らは、なんでこれ程までにジョンインの来鈴を心待ちにしているんだろう?”
鈴鹿カルチャーステーションの廊下で、
「おねぇちゃーん」
と駆け足でアカデミーのお姉さんの胸に飛び込んで行った幼子と、その子をとても愛おしそうに見つめているアカデミー生を観ながら、そんなことを考えていた。
(文 坂井和貴)
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