コミュニティ歳時記 1月号

呟きの、その先に

夕暮れ時、鈴鹿の空にカラスの道ができる。
白子の海の方から亀山の方に向かって、決まって同じ辺りを、数えきれないカラスが次々と渡っていく。

空のどこにも線はないし、交通整理係の一羽もいないのに、まるでGPSでも搭載しているかのような、その正確さに感心してしまう。
数年に一度クラスとかいう寒波の影響で、白く覆われた鈴鹿の峰々を背景に、ひと際映える空中の<カラスロード>・・・
LINE_ALBUM_イラスト_211231_0.jpg
年の瀬といえば、決まってお節作りである。
今年は360セットもの注文が各地から届いた。
コミュニティの家業とも言える<おふくろさん弁当>、
28日からは老いも若きも駆けつけ、所狭しと活況を呈する。

蝉の鳴き声が消え入る頃から始まった担当メンバーの構想、企画、試作、試食の末に産み出された、今年の一品一品。そこに心を込めていく・・・

お節の話題で賑わい始めた師走に入った頃だろうか、コミュニティの食部門を見ている三由紀さんが呟いた一言。
「年末の忙しい時こそ、毎日のお弁当を届けられたらなあ」

例年12月26日か27日でお弁当の販売は終了し、弁当屋さんを挙げてコミュニティを挙げて全面的にお節作りに入る。厨房や盛り付け室なども<お節仕様>に一気に様変わりする。

ずっとお弁当を取り続けている常連さんがお店にやって来て、
「そうかあ、お弁当お休みだったんだ。」
と落胆するのを見て、年末大掃除やお正月の準備とこんな時こそお弁当欲しいんだろうなと思いつつも、
「31日にお節用意してますからね。お楽しみに」
と言う他なかった。
LINE_ALBUM_イラスト_211231_1.jpg
20日過ぎだったか、
「三由紀さんの言ってた年末の弁当、何とかできたらええなあ」
どこからともなく、中井さんだったか、泉田さんだったかが言い始めて、
「来年からそう出来るようにしようよ」、がいつの間にか、
「今からなんとか出来ないやろうか~」になって、
「だったら、あ~も出来る、こ~も出来る」と、あっちでもこっちでも知恵が寄ってきて、
あれよあれよという間に実現してしまった。
今日31日には、日替わり弁当だけでなく年越し蕎麦まで用意しちゃおうとなった。

『年末はお節作りのみ。お弁当までは無理』
そう決まっていたのは、<頭の中>だけだった。
LINE_ALBUM_イラスト_211231_3.jpg
“呟き”と言えば・・・
コミュニティスペースJOYのマミー・芳子さんが20日に、
「JOYの冷蔵庫、ずっと働き続けてくれてるけど、<この子>そろそろ限界みたいでね。<新しい子>が来てくれたらいいけどなあ」
とボソッと。

アイランドショーケースという360度どこからでも、食材を出し入れできる<この子>は、もう何年もコミュニティの真ん中に居て、故障する度に電気担当の市川さんに直してもらい、最近では霜取り機能が効かなくなったと、毎日芳子さんがショーケースを空にしてはドライヤーで内部の霜を溶かしたりしていた。
「毎日霜取りしてても、だんだん冷えにくくなって来ててね。<新しい子>来て欲しいけど、ウン十万円もするって聞いたら、<この子>にもう少し頑張ってもらおうかね。」
と、続ける芳子さん。

「でも、ショーケースのお陰で家の冷蔵庫って殆ど使わなくなってる。」
「卵だって、翌日食べる分だけ、そこから持って行けばいいし」
「一人で、ウン十万円の冷蔵庫買うと思ったら躊躇うけど、“100人の冷蔵庫”だからなあ」
「そうそう100人で割ったら、一人数千円で済むじゃん」
「・・・・」
「・・・」
とか何とかいう展開になって、27日には<新しい子>が東北は仙台の方からやって来た。

からす なぜ鳴くの
からすは山に
可愛い七つの
子があるからよ
可愛い 可愛いと
からすは鳴くの
可愛い 可愛いと
鳴くんだよ
山の古巣(ふるす)に
行って見て御覧
丸い眼をした
いい子だよ


野口雨情が作ったとされる「七つの子」の詞。
どんな風にカラスを見ていたのかなと思う。
そして本当に“山の古巣”まで訪ねて行ったんじゃないだろうか・・・
パッパッと流れてくる画像・映像・情報を追いかけて処理しているのとは随分違う、得も言われぬ<ゆったり観>。

『それってどうなんだろう?』と、
手を止めて、耳を傾けたくなっているような、その見ている時の心持ちというか、
そのものに、その人に入っていくような親しさ近しさというか・・・

私たちの会心のお節は昨日から箱詰めされ、
宅配業者の力も借り<お節ロード>に載って、全国に発送された。
そして今朝は、お弁当屋さんの店頭で引き取りに来る人たちのために並べられている。
LINE_ALBUM_イラスト_211231_5.jpg
日替わり弁当と年越しぶっかけ蕎麦と共に。
「早く来ないとお節の箱の風呂敷包み終わっちゃうよ~」
という泉田さんからの呼びかけLINEを見て、奈々ちゃんが今、弁当屋に向かって走っていった。

2021年が暮れていく。
- | -
1