ブラジルからなぜ鈴鹿へ?―ジエイゴの内面の変化

心は何によって満たされるのだろう? 満ち足りて生きることは出来ないだろうか?
そこを本当に知りたいと思い、はるばるブラジルから日本にやってきた若者がいる。ジエイゴ、30歳。2017年3月に鈴鹿コミュニティに留学生として来日し、現在はサイエンズアカデミーで学んでいる。彼にその経緯を聞いた。日本に来た頃は日本語もままならなかったが、今では、その心の内をオープンにしてくれた。彼の心がどんなふうに開いていったか、笑いが飛び交うインタビューになった。(聞き手:IWATA)


ブロッコリー畑でジエイゴ


◆有機農業をきっかけに

――鈴鹿に来る前はブラジルで何をしてたの?

ジエイゴ サンパウロ大学で農業を学び、卒業後は有機農業のNPOで活動していた。農業指導をやったりイベントをやったり。
だけど、NPOでは俺の言ってることを聞いてもらえなかった。上手に話せる人の意見が通った。有機農業の指導も、農家には農家のやり方があったけど、俺はそこに行って「それは間違ってる!」と言って指導していた。

有機農業を学びたいと思って行ったのが、サンパウロにある有機農業の共同体だった。今のアズワンネットワーク・ブラジル・コミュニティ。そこで時々、サイエンズスクールのコースに参加したり、子どもキャンプのスタッフをやった。一週間過ごしたら、心がすごい満たされた。NPOでは満たされなかったから、どうやったら普段の暮らしで満たされるんだろう、自分の人生でそんなふうに満たされないだろうか。どうしていったらいいんだろうって思ってた。

――農業をやろうとしたのは何で?

ジエイゴ 大学のとき、ブラジルの貧困や差別をなくそうと思ってた。農業で社会をよくしたかった。
有機農業を勉強していくと、今の大学で学んでいることがおかしいと思い始めた。大学は会社のための人材を育てている。化学肥料を使う農業の勉強をする大学だったから大学の仲間はそっちの会社に就職した。農薬の会社は、農業をよくしたいわけではなく、農薬を売りたいのだと思う。大学を無償化して、学生は会社に入って農薬を売る仕事に就く。そんな流れがあった。

――有機農業に興味をもったのは何で?

ジエイゴ 大学で、有機農業を学んでいる人が少なかったから。そっちをやれば競争に勝てるという動機だった。(笑)
だけど勉強していくうちに、本来の植物を育てる、それには本来の土を作ること。それによって人間の体が健康になるって考えた。そのときは、精神や心のことは考えてもいなかった。安全な食べ物を食べてお金があれば幸せになれんじゃないかって。

――精神面の幸せを考えるようになったのは?

ジエイゴ サイエンズスクールのコースに参加して、心が満たされる感じを体験した。
それが何だろう? 何でここでは満たされるんだろうって考えた。一つは聴いてもらうってことかな。お金がいっぱいあるからいい人とかではなく、ただ人と人の関係を感じた。

――それで、なぜ鈴鹿に来ようとしたの?

ジエイゴ 農業よりは、まずは、心の方かなと思った。
ブラジルの人が日本のアズワンに来ていて、時々話を聞いてたから、本当に学ぶには鈴鹿に行くしかないって思った。
NPOの仕事で疲れて、本当に農業をやりたいかも考えてみようと思い、ブラジルも出たことないし、鈴鹿に行ってみようと思った。


アカデミー生のミーティングで


◆評価されたい自分

――それで鈴鹿に来てみて、最初はどうだった?

ジエイゴ 1日目、2日目まで、やるぞ!ってやる気だったけど、3日目で底まで落ちた。(笑)

――それは何で?

ジエイゴ 寂しさ。日本語が出来ない。文化も違う。人の接し方が違って、ブラジル人はハグしたりスキンシップがあるけど日本はない。その違いに慣れるまで日本人が冷たく感じた。彼女もブラジルにいたけど、遠くになったのも寂しかった。そういう気持ちがわーって出て来た。友達もいない、いっさいゼロという状態になって沈んだ。(笑)
そして、留学生ミーティングやサイエンズスクールのコースも日本語が出来ないから行けなかった。周りの人たちはやれるように見えて、自分だけ出来なくて寂しかった。最低の寂しさだった。(笑)

――そこからどうなってった?

ジエイゴ 3か月くらいしてサイエンズスクールの「内観コース」に入った。4か月くらいしてから留学生ミーティングとか研究会に出るようになった。6か月くらいでアズワンセミナーに参加した。すこしずつ、参加出来るようになった。日本語をマスターするのは、まだ難しかった。だから、日本語はもう無理だと思ってた。

だけど、日本語が出来ないけど、評価をもらいたいと思った。
だから、仕事をちゃんとやるぞ!時間を守るぞ!って思ってやってた。でも、誰も褒める人がいない。(笑)
だから、サイエンズで評価をもらおうとした。サイエンズが出来ているように見せたい!(大笑)

――サイエンズが出来てるってどういう感じ?(笑)

ジエイゴ 俺は悪感情がない!俺は寂しくない!俺は大丈夫!って見せたかった。(笑)

そういう時に留学生の研究会があった。少人数でゆっくり一人ひとり話をした。そこで「何でジエイゴは時間をちゃんと守るの?」という話になった。
その時、ここまでは言えるけど、ここから先は、サイエンズが出来ない人に見られるから、言えないって思った。そこを聞かれたから、しょうがない、ここはオープンにするかって、話をした。そういう時から、成長し始めたかな。人間としての…

――人に評価されたいって気持ちで行動してたところから、自分の内面に焦点があたってきた?

ジエイゴ それで、去年の4月にサイエンズアカデミーがスタートした。でも、まだ自分の中に不満や寂しさがあった。
アカデミーのスタート時点で。ファーストステージとセカンドステージがあった。俺はファーストステージになった。ところが留学生から一緒にやってた仲間がセカンドステージになって、俺は遅れてると思って、あ~って落ち込んだ。


ジエイゴのお母さんと


◆警戒心が消えて見えて来た本当のこと

――劣等感?

ジエイゴ そう。だからもうブラジルに帰ろうと思った。ところが母がブラジルから鈴鹿に来ることになってたので、とりあえず母を待つことにした。そして、そんな劣等感の反応があることもオープンにした。

そして、本当に自分が変わったのは8月に参加した「一つを実現するためのコース」のときだった。
参加者に岸浪龍さんがいて、彼の話を聞いたのが大きかった。龍さんには能力があって弁当屋を運営していた。でも、その時の彼の心の状態はどうなっているか。社長係をやめて下さいってなった。お金儲けよりも、その人の幸せを考えてる。それを聞いたときに、アズワンでやろうとしていることが本当のことをやってるなと思った。

そう思って、自分を振り返ってみたら、俺の1年半の鈴鹿での体験が違う角度から見えた。自分をダメだって見てたけど、自分の幸せのために用意してもらってる。そっちをみんなが願ってるって見えた。ファーストステージになった自分を下に見てバカにするんじゃなくって。
自分のここでの体験が、全部、そう見えて来た感じがした。そのとき、本当にこれで行きたいなって思った。一週間のコースの中でそう感じた。
それまでは、ブラジルに帰ろうかなって思ってた。もし帰ってたら、「次の社会」(アズワンが指向する社会)をやりたいとは思わなかった。もう少し自分を調べてラクになってブラジルに帰ってから考えようって思ってた。

――そのコースが大きかったんだね。

ジエイゴ 鈴鹿に来て体験はいっぱいしたけど、それが見えなかった。それは警戒心が強かったから見えなかった。そういう見方から、やさしくされているという見方へ変わった。実際は社会に支えてもらっている。身体的には、毎日職場に行ったり、JOY(コミュニティスペース)を使ったり、世話をしてもらったりして、体験してた。その実際が見えなかった。下心でやってくれてるって感じちゃう。見えちゃう。
それが、本当に人の幸せを願ってやっている、っていうことが見えてきて、全部がそう見えてきた。

――最初にここに来た動機があったね。「どうしたら自分が満たされていくか」それは今どうなってる?

ジエイゴ それは自分がやることじゃないって、はっきり見えてきた。それは社会がないと幸せに成り得ない。社会があって自分が満たされるって思う。
ここに来る前まで思ってた幸せより、今は想像した以上の幸せの状態にある。

――今、周りの評価や劣等感はどうなってきてる?

ジエイゴ だんだん減ってきている。俺のこと、聞いてほしいって素直に思う。見て見て、聞いて聞いて。そういう気持ちを認められなかった。それは弱い人のことだと、人の目を気にしている。だんだん、はずれてきている。



自分の内面をオープンにしていく様子を、笑いながら聞かせてもらった。オープンになればなるほど、軽くラクになっていく。きっと周囲の人たちが、どんなジエイゴでも受け入れてくれる安心があったんだろうと思う。
ジエイゴが軽くなった分、それがアカデミー生の空気にもなっていくのだろう。人の目や評価ではない、自分の中のものでやろうとしている、そんな純粋なものを感じた。(IWATA)
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「なぜ、僕はここにいるのか?」ヨッシー《後半》

人間関係でギクシャクし、その根本解決を望んでアズワンに留学したヨッシーこと吉岡翔一朗さん。インタビュー後半は、鈴鹿に来て学んできたことが現在、日常の暮らしの中でどのように現れているのか、“今”にスポットを当ててみた。(アズワンネットワーク活動事務局・IWATA)



◆湧いてくるものでやるから無理がない

――アカデミーを出発して、今はどんな感じ?

ヨッシー 最近、買い物したり、美味しいもの食べたり、その前後でも、他の家に呼ばれて食事したり、イベントみたいな楽しさがあった。
やってるときは楽しんでて、終わってから、里美さんと「終わったあと虚無感もあったりするなー」とか話したり…。
楽しいこともあるけど、本当に自分の心が満足して暮らしているか、わからないなーとか。
「人が本当に満足するって何だろうね」って、そういうことが日常話せるのがいいなって思う。

“やること”の話じゃなくって、自分の内面と向き合って、出し合う時間もつくりたいなって。
やってて思うんだけど、自分も自分のことを知らない、相手のことも長く一緒にいるつもりだけど「何でそういうこと言うのかな」とか知らない。
日常、自分の外のことを話している感覚だけど、自分が自分のことを話すのって面白い。夫婦で練習中。

お互い通じ合うと心の状態も影響する。不思議だけど、いろいろやりたくなる。湧いてくるものがある。
その湧いてくるものでやるのは無理がない。
逆に、“やること”があってやると疲れる。やりたくないわけではないけど。

“やること”をやってから話す時間を持ってて、話す時間を後まわしにしてた。だから時間が取れない日があった。
「それって逆なんじゃないか」って話して…。
話す時間を取った上で、空いた時間に“やること”を済ませていくって、そっちじゃないかってね。

そういうのを二人で話し合って、どれだけ実現してるかだけど、面白い。

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◆本当に心が満足する方に向かっていきたいね

――内面の話ってどんなの?

ヨッシー 助産院に最近よく行く。僕が職場を終わって行く時もあって、行ったあとに里美さんが「買い物したい」って、僕が「え!買い物?」って感じ…、
「じゃあ、すこしね~」みたいに言って、僕は職場終わった後で疲れ気味で、はーって感じで言うと、
そんな様子をみて、里美さんも、「もういい」ってなった。
そのときの自分は、目的は助産院に行くことで、「何で買い物するんだよ」って、そういうのを出したりした。

里美さんも言葉では助産院に行きたいって言うけど、二人で一緒に過ごしたいっていう気持ちみたい。やっぱ、ちがうんだな。
「今日は僕は帰りたいよ」とか、その場でやりとり出来ればなって後で思った。
そういうのも出してて、自分も何がしたいのかとか、相手は何がやりたいのか話したりとか、
最近楽しいことやってるけど、満たされてるか、とか、
内面を聞き合う時間をとれてないね、とか、そういう時間大事にしたいなとか、そんな話をしてる。

アカデミーを終わって、まだ未熟というか知らないことがいろいろある。日常そういうところにフォーカスしながら、それを楽しみながらやれるのっていい、気づき合いながら知り合いながら暮らしていける。本当にねがっているもの、本当に心が満足するっていう方に向かっていきたいね、とか。
一回話したから終わりではなく、日々話し合えるって面白い。
それが暮らしにもちょっとつづ反映されていってるのかな。練習中って感じかな。
そこが自分が願ってたことのような気がするなーって思う。

里美さんと、浜松でやってたときにくらべたら、会話の質がぜんぜん変わってる。
そういう会話が出来る状態じゃなかった気がする。
話し合いの質みたいなものが変わってる。

買い物とか手続きとかは後回しにして、“やること”は頭の隅においやろうぜって(笑)
そうすると家庭の暮らしに少しずつ反映されていくのって面白い。
順序は、満たされた分、湧いてくるものがあるんじゃないか。
そういのを積み重ねていくと体質が変化していくんじゃないかなって思う。


おふくろさん弁当で調理をしているヨッシー
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「なぜ、僕はここにいるのか?」ヨッシー《前半》

サイエンズアカデミー生にインタビュー

昨年スタートしたサイエンズアカデミー(それ以前は、サイエンズ留学生制度があった)。現在12名の若者たちがアズワン鈴鹿コミュニティを舞台にしてサイエンズを学んでいる。
彼らは何にひかれてここにいるのだろうか。何を求めて…?
今年3月にアカデミーを出発し、現在、鈴鹿コミュニティで生活しているヨッシーこと吉岡翔一朗さん(29歳)に、そんな問いを投げかけてみた。
心の底で求めているもの、そこを探っていけたら、他の若者たちにも響くものがあるんじゃないか、そんな思いでインタビューしてみた。(アズワンネットワーク活動事務局・IWATA)



今年3月にアカデミーを出発して鈴鹿に暮らしている吉岡さんと里美さんのカップル

◆トランジションタウン活動の仲間達と

――鈴鹿に来る前は何をしてたの?

ヨッシー 浜松でトランジションタウンというコミュニティ活動をしてた。
トランジション活動で収入が得られるように試行錯誤してて、だんだんアルバイトしなくても、生計が立つようになってきてた。順調な時に鈴鹿に来た。よく捨ててきたなって思う(笑)。

――トランジションタウン活動で何をしようとしてたの?

ヨッシー トランジションタウンは持続可能な社会を目指していて、そこに共鳴する人が集まってた。
僕は、社会問題に関心があった。人のつながりが失われているとか、貧困・格差・心の問題…とか、あらゆる社会問題が各分野で起きてる。食の問題に関心がある人もいたし、僕はエネルギー問題に関心があった。
でも問題の根元は一緒じゃないかって思ってた。それぞれの関心は違ったけどトランジションタウンという中でみんなが集まってたかな。人とつながっていくことを大事にしてた。
一時期はメンバーが増えたり、イベントにすごく人が来るようになったりして、一見順調に見えてた。

◆どうしてギクシャクするのか

――軌道に乗りつつあるときに、何で鈴鹿に来たの?

ヨッシー お金の面を見たら順調たっだ。焼肉も食べに行ってたし。(笑)
結局、幸せなのかっていうのを考えると…。その時、僕は里美さんと二人暮らしで、それ以外にコミュニティもあって、日常を共にする人たちがいた。だけど、そこでの人間関係がギクシャクしてるのをみて…
僕と里美さんも家で言い合いになったり…。里美さんとRさんとが一緒のコミュニティカフェをやってて、そこでギクシャクして家に帰ってくるから、家でもちょっとしたことでイライラした。楽しいときもあるけどね。Rさん、里美さんは、同じトランジションタウンの仲間。

――どうしてギクシャクするの?

ヨッシー 中心でやってる人がギクシャクしてた。お互いのやり方がちがうとか…、中心メンバーのグループがあって僕もその中にいた。そのときに自分以外の5人が積極的ではないって見えた。何でこんなに受け身なんだって。
でも、他の5人は僕より年上で、僕より長く活動してる先輩で、言えないんだよね。思ってることが。言っちゃいけないっていうか。
だから、遠回しに言おうとしたり…。すごくイライラした。
だんだんその集まりも面白くなくなっていくし、疲れるし… 惰性で一か月に1回集まってた。 
そのときはじめて人間関係で疲れたなって思った。

でもみんな人柄はよくって、楽しくやっていこうよ、一緒にやっていこうよっていう人たちが集まってた。だけど、何で、こんなにうまくいかないのかなって思ってた。
今から振り返ってみて、みんなに対して自分が怒ってる。「何でやらないんだ」って責めてる感じがあったかな。
そういうのがあって、お互い疲れ合うことしててもな、意味あるかなって、諦めかけてたのもある。

もっと可能性があるのを探してて、NVCやコーチングにも目を向けてみた。鈴鹿のことも知ってて、「持続可能な社会づくりカレッジ」というのに誘われて、一回行ってみた。
そこで、鈴鹿の取り組みが、根本的なところからやろうとしてるのかなって直観的に思った。根本的にいきたいって思った、そこに可能性を感じた。

◆持続可能な人間関係がある?

――参加してそう思った?

ヨッシー そうだね。
「持続可能な人間関係」っていう観点っていうのは他になかったから。
持続可能なエネルギーとか、持続可能な農業とか、そういうのは関心があったけど、人間関係なーー?っていうか、人間にもそういうのがあるのかな・・って思った。

そういう自分の事例もあったし、他でも人との人間関係のいざこざで活動をやめたり止まったりというのをよく見てて、活動だけ進めようとしても、止まったりして、続いてないなっていうのを思ってた。

――そこで、ヨッシーが根本からやりたいと思ったのは何で?
他の5人は、どんな感じだった?

ヨッシー その5人の立場からしたら、どうだったんかな……? 人間問題で行き詰ってる感じじゃなかったんかな。
そのときは、ぼくだけが、人間関係が問題じゃないかって思ってた。他の人たちは、やり方とか進め方が問題だとか、たまたま運が悪かったとか…

――それぞれの問題の捉え方が違ってたってことか?

ヨッシー 人間関係で、内面じゃないかって、そのときは僕一人だけ言ってた。
でも、人間関係で活動が止まったりしてるのを見てて思って、人間関係というよりか内面なのかな。
他の人たちはやり方を考えていけばもっとよくなるよとか、「なるようになるよ」っていうポジティブ思考で、「流れだよ」みたいに言ってた。僕は「そんなわけないだろう」って。(笑)

◆根本的に解消していく道を
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